医療法人　敬生会 理事長　佐久　昭

    小学校に入学したのは昭和２４年です。東京の世田谷でした。終戦からわずかに３年半しかたっていません。戦争の傷跡は随所に残っており、クラスの１／３は裸足、弁当を持たない子がやはり１／３いました。国中が一様に貧しく、飢えで命を落とす者や、身寄りを亡くして孤児になった者も少なくありませんでした。
   私は家族を失うこともなく、ひもじい思いもすることもなかったのです。私には「おまえは生きていていいんだ」という「許し」が必要でした。小学校３年の時、考えあぐねた末、将来医者になろうと決めました。医者になって、持てる物を世の中に還元すれば、許しが得られる。そう信じたのです。
   昭和５６年８月に十慈堂病院を開設し、やがてデイケア、訪問看護ステーション、老健施設などを立ち上げてきました。できることがあるなら、やらなければいけない。今しかできないこと、今ならできること、今こそやらなければならないこと、それに目をそむけることは、自分の人生を否定することになる。そんな思いで今日まで来ました。私には人を助けることも、世の中を変えることもできません。ただ「持てる力を出し惜しみしない」。これを信条にこれからも頑張っていきたいと思っています。

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